忍者ブログ
※サークルHALLOWのブログにお越しの方はこちらへどうぞ
2024/05/22  [PR]
 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 *  cm:0

下の続き。絵はまだかけていない・・・クッ。
3、4話たまったらギャラリーに格納致します。ぬんぬん。

またもや文章です。
続きからどうぞ!




あのあと、猫にえさをやって早々に立ち去ってしまったから、その後のことはよくわからない。
背を向けたあともあの黒髪の女はやんややんやとこちらに向かって何か言っていたが(多分飯の心配しかしていなかったはずだ)そのすべてに対して無視を決め込んだ一護だった。

次の日、昨日のすっきりとしない空気を一掃するかのように大陽を覗かせた青空が、ここ数日で気温を急激に上げてきた大気と融合してじりじりと一護の肌を焼いた。
夏の一歩手前、中途半端といえばそうだが、少し心が沸き立つこの時期は、万年仏頂面の一護だって例外無くそわそわするものだ。くわえて昨日の衝撃的な(?)出会いがそれをさらに加速させている節がある。どちらかというと、出会いたいのではなく出会いたくないのだが。
なにせ昨日あんな別れ方をしてしまったから、今日も頼まれたえさやりに赴いて彼女も変わらずそこにいたらどうしようと言う気持ちが強かった。
けれど親友に頼まれてしまった手前、行かないという選択肢は無く、今日も一護は庭園へ向かう。
からりと乾いた大陽が、噎ぶ緑色をより一層あざやかに煌めかす。
にゃあにゃあと元気な猫の鳴き声。耳を澄ませれば昨日より数が増えている気がする。
背の高いタチアオイをよけて庭園に足を踏み入れると、やはり今日も、昨日の黒髪猫女がそこにいた。

「…やっぱいるし」
「おお、昨日ぶりだな、オレンジ頭。」

今日は来ないのかと思った、と屈託なく笑うから、あまりに拍子抜けして変な声が出てしまった。


猫へのえさを小皿にとりわけで置いてやる。数が多いので黒髪の女が手伝ってくれた。その手つきは小慣れていて、茶渡は猫だけでなくこんな存在まで手なずけていたのかと一護はうすらと思う。
それでは自分の分を、と今日の朝有り合わせで作ったサンドイッチを広げたら、案の定黒髪女に一切れ取られてしまった。それを想定して少し大きめに作ったから、どうにも彼女の小さな手のひらから余っているような気がして、不思議な気分がした。自分の作った物を名前も知らない赤の他人に分け与える日がくるだなんて思いもしなかった。
芝生にぽてんと座り込み、膝に猫を置いたその女はまふまふとサンドイッチをほおばりながら、一護の『茶渡は一週間急用で来れねえんだ』という説明をふむふむと聞きながら、なんともなさげにこちらを見やった。

「そうか、ではやはり茶渡の代わりなのだな。なんだ、それなら新入生か。」
「新入生ってほどもうフレッシャーズじゃねえよ」
「いいや?ぴっかぴかの一年生はなにかと眩しいものだよ。」
「つかなんで一年って分かるんだよ…チャドのダチってだけで」
「見れば分かるよ、一発でな。」

なにせ新入生は肩に力が入りまくっているからなあ、初々しくて仕方が無いったら。
そう笑う女だって、妙に小さくてみようによっては中学生くらいに見えるのに、何故だか妙な貫禄があった。
一体幾つなんだろうか、年齢が不詳すぎてやっぱいっそ猫が化けたみたいだなあともんやり一護が思っていると、ぐりんと女の紫の瞳が一護をとらえた。

「貴様今、ちょっと失礼な事考えたろう」
「…考えてねーし」
「顔に書いてあるぞ。おおかた、自分が一年に見えるなら私は中学生くらいに見えるとか考えてたんだろう。」
「…」
「正直者め、まあいいよ。慣れているからな。」

そういってふっと笑う顔が、やはり妙に大人びていて、彼女の年齢不詳っぷりを助長させていった。
なんだかそれが意味も無く悔しくて、じゃあ結局年は幾つなんだよ、つかどこの学科なんだと噛み付くように質問してしまった。(それすらあまりに子供染みていて、一護はまた少し悔しい思いをするのだが)
彼女は少しムキになった一護を見てから、膝に抱えていた黒猫をむぎゅりと顔の横で抱きしめて、いたずらっぽく笑った。

「さあ?どこだと思う?幾つに見える?」
「…はぁ?」
「ふふ、クイズにしよう。明日までのな。正解者にはこやつの接吻だ」

そう言ってからずいっと猫の鼻先を一護の眼前に突き出すと、驚いた顔をした一護が今度こそ本当に面白かったのかハハハ、と高らかに軽やかに笑い声を上げた。
くるくるとよく変わる表情だ。大きい瞳は世界の色を映してまるでガラス玉だった。
一瞬でもそれに見ほれてしまいそうになった一護は自分の思考回路があまりに浮ついていると感じて、よりいっそう眉間のしわを深く刻んだ。自分からの質問に対して、あまりにもするすると躱されるものだから、イライラしていたのもあるだろう。楽しくない。それだけだ。

「…名前、名前くらいはまともに教えろよ。」
「それで学籍を調べるなどしたら反則だぞ?」
「しねえよ、いちいち呼びにくいから聞いてるだけだ」
「そうか?私はオレンジ頭で事足りるが」
「俺は事足りてねえんだよ」
「ふぅむ…」

そこで猫の頭に顔を埋めてひとしきり悩むと、ぽん、とひらめいたような顔をして一護の方へ嬉々として向き直った。また何かくだらない事を思いついたようだった。
結局何一つ綺麗にスルーされた一護がイライラとその顔を受け止めていると。

「オレンジ頭!背中を貸せ。こっち側に向けろ。」
「…はぁ」
今度はなんスか、ともういくつめか分からないため息を吐くと、しびれを切らした彼女にグリンと背中を向けさせられる。その途中で無茶な姿勢を強いられてしまった故に、一護の口からカエルが捻り潰されるような音が鳴った。

「いいか、今から貴様の背中に文字をかくから、それを当ててみろ。ああ、カタカナにしといてやる。当てやすいだろう?」
「それが名前ってか」
「さあ、どうだろうな?…よし、いくぞ。」

一護の背中に、彼女の細くて柔い指先が当たる。するすると直線と曲線を描くその白魚の感触に、なんとなくそわそわしてしまった一護が身じろぎすると「こら!動くな!書きにくいだろうが」怒られてしまった。なぜだ。
間を置いて三文字。カタカナ。途中、はねたりとまったりを繰り返して、指先はふっと離れた。

「さ、当ててみろ。正解は明日、だ!宿題にしておいてやる。」
「いらねー」
「まあそう言うな。…む、そろそろタイムリミットだな。私は帰るよ、サンドイッチありがとう、おいしかったよ」
「…おう」

言うが早いか、黒髪の彼女は紺色の水玉ワンピースについてしまった草を払い落とすと、抱えていた黒猫をおろしてどこかへ駆けていってしまった。
緑色の木立の合間を抜けていく背中は、妙に絵になっていて、一護はぼんやりと目で追ってしまった。初夏の日差しを浴びて、駆けていく少女が一人、それだけ言えば、立派な青春グラフィティである。

取り残された一護は周りを猫に囲まれながら、背中に刻まれた彼女の痕跡を必死で反復した。
熱が残っているようで、なんだか変な感じだったから、思い出す事は容易かった。

ル・キ・ア

(…ルキア)


「……変な名前」

本当に名前じゃねえもの書いたんじゃないのかと思うほど、その三つの音は不思議な響きを纏っていたが、何故だかそれは、一護の心にすとんと落ち着いてすぐさま居場所を作っていた。
PR
この記事にコメントする

name
title
color
URL
comment
password
prev  home  next
カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)